隣室の隙間
春、私は築年数はそれなりだが、陽当たりの良いアパートに引っ越してきた。隣の部屋は、挨拶に行こうにもいつも留守のようだった。それでも夜になると、ごく稀に、水を使う音や、何か硬質なものが触れ合うような微かな音が聞こえてくる。人の気配は確かにするのに、一度も姿を見たことがない。
ある日の夕方、床に座って壁にもたれかかっていると、ふと視線の先に、小さな傷を見つけた。おそらく前の住人が誤ってつけてしまったものだろう。指でなぞると、その傷は見た目以上に深く、光がわずかに漏れているようだった。
胸にこみ上げる好奇心に抗えず、片目を閉じ、もう片方をその隙間にできるだけ近づけてみた。薄暗い向こうの部屋が、ぼんやりと視界に入った。そこには、床一面に広がる、無数の精巧な機械部品のようなものが散らばっていた。銀色や黒の小さな歯車やネジ、回路のようなものが、まるで広大なパズルのピースのように無造作に、しかし規則性を持って置かれている。その中心に、俯いて一心不乱に作業をする人影が見えた。
その日から、私の夜は変わった。壁の向こうで繰り広げられているらしい、隣人の秘密の作業。どんなに耳を澄ませても、作業音はほとんど聞こえない。ただひたすらに、あの静寂の中で何かを作り続けるその姿を想像すると、私は言いようのない不安と、奇妙な魅惑を感じずにはいられなかった。この壁一枚隔てた隣には、私がまだ知らない、深く計り知れない世界が広がっているのだ。
ある日の夕方、床に座って壁にもたれかかっていると、ふと視線の先に、小さな傷を見つけた。おそらく前の住人が誤ってつけてしまったものだろう。指でなぞると、その傷は見た目以上に深く、光がわずかに漏れているようだった。
胸にこみ上げる好奇心に抗えず、片目を閉じ、もう片方をその隙間にできるだけ近づけてみた。薄暗い向こうの部屋が、ぼんやりと視界に入った。そこには、床一面に広がる、無数の精巧な機械部品のようなものが散らばっていた。銀色や黒の小さな歯車やネジ、回路のようなものが、まるで広大なパズルのピースのように無造作に、しかし規則性を持って置かれている。その中心に、俯いて一心不乱に作業をする人影が見えた。
その日から、私の夜は変わった。壁の向こうで繰り広げられているらしい、隣人の秘密の作業。どんなに耳を澄ませても、作業音はほとんど聞こえない。ただひたすらに、あの静寂の中で何かを作り続けるその姿を想像すると、私は言いようのない不安と、奇妙な魅惑を感じずにはいられなかった。この壁一枚隔てた隣には、私がまだ知らない、深く計り知れない世界が広がっているのだ。
コメント
コメントを投稿