車窓に揺れる、古書の真実

朝の通勤電車は、今日も変わらず同じ顔ぶれを乗せていた。
窓の外を流れる景色を眺めながら、僕は手に持つ一冊の古書をそっと開いた。表紙は擦り切れ、ページは黄ばんでいる。これは、数年前に他界した祖父が遺した品だった。

祖父は生前、よくこう言っていた。「真実は、いつも隠されたページに宿るものだ」と。その言葉は、この古書のある一ページに、祖父の筆跡で記されている。僕にとって、この本は祖父との繋がりであり、同時に解き明かせない小さな秘密でもあった。

視線を上げると、向かいの席に座る女性が、僕の古書とよく似た、しかし明らかに異なる別の古書を読んでいることに気づいた。彼女は時折、顔を上げては車窓の外に目をやる。その横顔は、まるで何かを待っているようにも、何かを隠しているようにも見えた。

ふと、彼女が読んでいた本のページに、僕の古書にはない手書きの走り書きがあるのが見えた。目を凝らすと、「ここに真実あり」と読める。その瞬間、僕は心臓が跳ねるのを感じた。祖父の言葉と、この女性の本。偶然にしてはあまりに出来すぎている。

次の駅で彼女が降りると、僕は思わずその背中を目で追った。彼女は改札を出る寸前、僕の方を振り返り、微笑んだ。その手の古書は、確かに僕の祖父のそれとは違うシリーズだったが、不思議な既視感があった。

電車は再び走り出す。僕は自分の古書をもう一度開いた。祖父の書き残した「真実は、いつも隠されたページに宿る」という言葉の下に、これまで見落としていた小さな印が刻まれていることに気づく。それは、まるでこの路線の特定の駅を示す記号のようだった。

僕の電車での毎日は、単なる移動の繰り返しではなくなっていた。祖父が僕に残した秘密、そしてあの女性との奇妙な邂逅が、古書の中に眠る真実へと導く、新たな旅の始まりのように思えたのだ。

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